「足つり予防」よりも大事な、汗・水分・ナトリウムの考え方
夏場のロング走やマラソンレースでよく出てくるのが、
「塩分はどれくらい摂ればいいのか?」
という問題です。
ジェル、スポーツドリンク、塩タブレット、経口補水系ドリンクなど、いろいろな商品がありますが、結論から言うと、多くの市民ランナーは“1時間あたりナトリウム300〜600mg程度”を目安に考えると現実的です。
ただし、これは「全員が必ずその量を摂るべき」という意味ではありません。汗の量、気温、走る時間、給水量、体質によってかなり変わります。
まず結論:マラソン中の塩分補給の目安
マラソン練習・レース中の目安は、ざっくり以下です。
条件 ナトリウム摂取の目安
60分以内の軽い練習 基本的に不要。水だけでもよい
60〜90分の練習 暑い日・汗が多い日は少量
90分以上のロング走 300〜600mg/時を目安
暑熱下の30km走・フルマラソン 500〜800mg/時も選択肢
汗が非常にしょっぱい人・塩の跡が残る人 やや多めに調整
ここでいう「塩分」とは、厳密にはナトリウムです。
食塩、つまり塩化ナトリウムは、ナトリウム量に換算すると約40%です。
つまり、
食塩1g ≒ ナトリウム約400mg
です。
そのため、ナトリウム500mgを摂るということは、食塩換算で約1.25gに相当します。
エビデンス上の基準:ACSMは0.5〜0.7g/Lのナトリウムを推奨
アメリカスポーツ医学会、ACSMの運動中の水分補給に関するポジションスタンドでは、1時間を超える運動では、飲料1Lあたりナトリウム0.5〜0.7g、つまり500〜700mg/L程度を含む補給が有用とされています。これは発汗で失われるナトリウムの補充、飲みやすさの向上、体内への水分保持、過剰飲水による低ナトリウム血症リスクの低減に関係します。
これを実際のランニングに置き換えると、たとえば1時間に500〜750ml飲むランナーなら、
ナトリウム250〜525mg/時
くらいになります。
市販のスポーツドリンクだけだとナトリウム量がやや少ないこともあるため、暑い日のロング走では、スポーツドリンク+塩タブレット、または電解質入りジェルなどを組み合わせるのが現実的です。
ただし「塩を摂れば摂るほどよい」わけではない
ここが重要です。
マラソン中の危険なトラブルとして、運動関連低ナトリウム血症があります。これは長時間運動中または運動後に血中ナトリウム濃度が低下する状態で、重症化すると危険です。文献上は、血清ナトリウム濃度が135mmol/L未満になる状態と定義されています。
低ナトリウム血症の主な原因は「塩分不足」だけではありません。むしろ重要なのは、
水を飲みすぎること
です。
2015年の運動関連低ナトリウム血症に関する国際コンセンサスでは、予防の基本として、発汗量や尿量を超えて過剰に飲まないこと、そして喉の渇きに応じて飲むことが強調されています。
つまり、塩タブレットを摂っていても、水を飲みすぎれば低ナトリウム血症のリスクは残ります。
実践的には「水分量」とセットで考える
塩分補給は、単独で考えるよりも、水分補給量とセットで考えた方が分かりやすいです。
目安としては、
飲むもの1Lあたりナトリウム500〜700mg
です。
たとえば、暑い日のロング走で1時間に600ml飲むなら、
600ml × 500〜700mg/L
= ナトリウム300〜420mg/時
くらいが一つの目安になります。
一方で、真夏の30km走などで1時間に800ml飲むなら、
800ml × 500〜700mg/L
= ナトリウム400〜560mg/時
になります。
このくらいなら、多くの市民ランナーにとって現実的です。
具体例:フルマラソンでの補給設計
たとえば、3時間15分〜3時間30分くらいでフルマラソンを走るランナーを想定します。
暑くない日
水分:400〜600ml/時
ナトリウム:300〜500mg/時
炭水化物:40〜60g/時
このくらいで十分なことが多いです。
暑い日・汗が多い日
水分:600〜800ml/時
ナトリウム:500〜700mg/時
炭水化物:50〜70g/時
気温が高い、湿度が高い、汗でウェアに白い塩の跡が残る、走後に体重が大きく落ちる、というタイプの人は、このくらいを検討してもよいと思います。
塩タブレットは何個必要か?
商品によってナトリウム量が違うので、必ず成分表示を見る必要があります。
たとえば、1粒あたりナトリウム100mgの塩タブレットなら、
目標ナトリウム量 必要な粒数
300mg/時 3粒/時
500mg/時 5粒/時
700mg/時 7粒/時
となります。
ただし、実際にはスポーツドリンクやジェルにもナトリウムが含まれます。
そのため、
スポーツドリンク+ジェル+塩タブレットの合計
で考える必要があります。
たとえば、1時間あたり、
スポーツドリンク500ml:ナトリウム200mg
ジェル1個:ナトリウム100mg
塩タブレット2粒:ナトリウム200mg
なら、合計でナトリウム500mg/時です。
これなら暑い日のロング走としては、かなり現実的な設計です。
「足がつる=塩分不足」とは限らない
よく「足がつるのは塩分不足」と言われます。
もちろん、発汗による水分・ナトリウム損失が関係することはあります。しかし実際には、マラソン後半の足つりは、
筋疲労
ペースオーバー
下り坂やフォームの崩れ
筋持久力不足
暑熱による神経筋疲労
補給不足
脱水
などが複合して起こります。
つまり、塩タブレットだけで足つりを完全に防げるわけではありません。
むしろ、塩分だけに頼るより、
前半突っ込みすぎない
炭水化物を切らさない
暑い日は体温を上げすぎない
ロング走で後半の筋持久力を作る
給水を適量にする
ことの方が重要です。
自分に必要な量を知るには「体重変化」を見る
一番実践的なのは、練習前後の体重を測ることです。
たとえば、
練習前:64.0kg
練習後:62.8kg
練習中に飲んだ量:1.0L
この場合、体重は1.2kg減っています。飲んだ1.0Lも含めると、汗などで約2.2L失ったと推定できます。
2時間走ったなら、発汗量は約1.1L/時です。
このタイプの人が暑い日に水分を300ml/時しか飲まないと、かなり脱水方向に進みます。逆に、発汗量が少ない人が1時間に1L以上飲み続けると、飲みすぎになる可能性があります。
目安として、運動後の体重減少は2%以内に収めたいところです。64kgの人なら約1.3kg以内です。
汗が「しょっぱい人」は多めに考える
汗に含まれるナトリウム量には個人差があります。
以下のような人は、ナトリウム損失が多い可能性があります。
ウェアや帽子に白い塩の跡が残る
汗が目に入ると強くしみる
走後に皮膚がザラザラする
暑い日のロング走で極端にだるくなる
水だけ飲むと胃がチャポチャポする
脚が重くなりやすい
このような場合は、ナトリウム300mg/時よりも、500〜700mg/時を試す価値があります。
ただし、高血圧、腎臓病、心疾患などがある人は、運動中の塩分補給について医師に確認した方が安全です。
私ならこう使う:ロング走・レース別の実践例
90分ジョグ
涼しい日なら水だけでもよい。
暑い日はスポーツドリンクを少し入れる程度。
目安:ナトリウム0〜300mg/時
2時間走・25km走
スポーツドリンクまたは電解質入りドリンクを使う。
汗が多い日は塩タブレットを追加。
目安:ナトリウム300〜500mg/時
30km走
本番に近い補給練習として、ジェル・スポーツドリンク・塩タブレットを組み合わせる。
目安:ナトリウム400〜700mg/時
フルマラソン本番
気温が低ければ300〜500mg/時。
暑い日、汗が多い人、3時間以上走る人は500〜700mg/時を検討。
ただし、給水所で水を大量に飲みすぎない。
基本は「喉の渇き+予定量」でコントロールする。
まとめ:塩分補給は「少なすぎ」より「設計なし」が問題
マラソン中の塩分補給は、難しく考えすぎる必要はありません。
基本は以下です。
60分以内なら基本的に塩分補給は不要
90分以上ならナトリウム300〜600mg/時を目安
暑い日や汗が多い人は500〜700mg/時も選択肢
飲料1Lあたりナトリウム500〜700mgが一つの基準
水を飲みすぎると低ナトリウム血症のリスクがある
足つりは塩分不足だけでなく、筋疲労やペース配分も大きい
自分の発汗量は練習前後の体重で確認する
塩分補給は「多ければ安心」というものではありません。
大事なのは、水分・ナトリウム・糖質をセットで考え、自分の汗の量に合わせて調整することです。
特に夏場のロング走やフルマラソンでは、補給は練習の一部です。
レース本番で初めて試すのではなく、30km走や2時間走の中で、自分に合う量を確認しておくのが一番安全で確実です。